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にきびのない肌で検出されることが多いアクネ菌株は黄色ブドウ球菌に対する生体防御機能を向上させることを発見

                                                                      プレスリリースはこちらから
この研究発表は下記のメディアで紹介されました。
◆11/3 時事ドットコム

本研究のポイント

◇「にきび患者の肌(にきび肌)で検出されることが多いリボタイプ1のアクネ菌
  株」は線虫の寿命を短縮、「にきびのない肌(健康肌)で検出されることが多い
  リボタイプのアクネ菌株」は線虫の寿命を短縮しないという相関関係が明らかに。

◇「にきびのない肌(健康肌)で検出されることが多いリボタイプのアクネ菌株」
  によって、黄色ブドウ球菌2への生体の抵抗性が向上することが分かった。

◇アクネ菌の健康肌関連株とにきび肌関連株を識別できる可能性が示唆された。


1 リボタイプ:リボソーマルRNA(rRNA)の塩基配列多型をもとにしたサブタイプ分類。菌株などの分類によく用いられ、疫学分野での応用も多い。

※2 黄色ブドウ球菌:ヒトの皮膚、特に化膿した部位などに増殖しやすく、食中毒の原因になることもある。抵抗力の低下した人に対する日和見感染菌としても知られている。

概要

 大阪市立大学大学院 生活科学研究科の靏 綾乃(前期博士課程2年)、濱﨑 祐美(前期博士課程2018年度修了)、西川 禎一名誉教授、中台(鹿毛)枝里子教授らと岡山大学病院の冨田 秀太准教授(ゲノム医療総合推進センター)による共同研究グループは、ヒトの皮膚から分離された複数のアクネ菌株の生体作用について、モデル生物の線虫 C. エレガンスを用いて調べました。その結果、「にきび患者の肌で検出されることが多いリボタイプのアクネ菌株」は線虫の寿命を短縮し、「にきびのない人の肌で検出されることが多いリボタイプのアクネ菌株」は寿命を短縮しないことを発見しました。これにより、アクネ菌株のリボタイプにおけるヒトに対する疾患(にきび)関連性と線虫への病原性(寿命短縮効果)の相関関係が明らかになりました。さらに、にきびのない人で検出されることが多いリボタイプのアクネ菌株(健康肌関連株)を用いて、皮膚に分布する細菌の1つである黄色ブドウ球菌への影響を調べたところ、健康肌関連株のアクネ菌は、宿主の生体防御系を活性化することにより黄色ブドウ球菌への抵抗性を向上させることがわかりました。
 本研究により、負の側面から語られることの多いアクネ菌の正の側面が明らかになるとともに、有益な皮膚常在細菌として「飲まないプロバイオティクス」として応用の可能性も期待されます。
 本研究の成果は、アメリカ微生物学会が発行する国際オープンアクセス誌『Microbiology Spectrum』(10月28日午前2時)にオンライン掲載されました。

研究者からのコメント

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       靏 綾乃         濱﨑 祐美   中台(鹿毛)枝里子教授

大学院生を中心とした生活科学研究チームが臨床比較ゲノムの研究者とタッグを組み、線虫をモデルとして用いることで、アクネ菌株のニキビとの関連の有無を区別できる可能性を示すことができました。多くの若者が悩むにきびの治療や健康肌関連アクネ菌株の新たな利用につながることを期待しています。

研究の背景

 Cutibacterium acnes (アクネ菌)はにきび(尋常性ざ瘡)の原因になるといわれており、その病原性がクローズアップされていますが、一方では健康な人の皮膚にも広く分布する常在性細菌の一つであり、皮膚を弱酸性に保つことにより他の病原性細菌の増殖を抑える可能性なども示唆されています。近年、次世代シーケンスによる常在細菌叢の菌株レベルの全ゲノム比較解析が進む中、アクネ菌株間の遺伝的背景の違いが皮膚における役割の差異につながる可能性も指摘されています。
 ヒトの健康や疾患の理解のために、哺乳動物を用いた実験が行われることは一般的でしたが、昨今、動物愛護の観点から世界的な動物実験削減・廃止の動きが急速に進んでおり、ヘルスケアや化粧品産業界においてはその傾向が極めて顕著です。こうした哺乳動物を代替するモデルへのニーズの高まりを受けて、線虫C. エレガンスの利用が注目を集めています。線虫C. エレガンスは成虫でも体長約1 mm、体細胞数は約1000個しかありませんが、神経系や筋、消化管などの動物としての基本的な器官・組織を有し、皮膚に相当する体表バリアも備えています。

研究の内容

  本研究グループは、線虫 C. エレガンスをモデルとして用いて、ヒトの皮膚から分離された複数のアクネ菌株の生体作用を調べました。その結果、にきび患者の肌で検出されることが多いリボタイプ(RT4,8)のアクネ菌株は線虫の寿命を短縮し、にきびのない人の肌で検出されることが多いリボタイプ(RT6)の菌株は短縮しませんでした。すなわち、アクネ菌株をリボタイプで分類すると、ヒトに対する疾患(にきび)関連性と線虫への病原性(寿命短縮効果)が相関することがわかりました(図1)。

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 そこで、健康肌関連株のアクネ菌を用いて、宿主の黄色ブドウ球菌への感受性に与える影響を調べました。その結果、にきびのない人に多く存在するリボタイプ6の株(健康肌関連株)を与えた群では、対照群と比較して、黄色ブドウ球菌感染後の生存期間が延長することがわかりました(図2)。

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 また、RNAシーケンスにより遺伝子発現変動解析を行ったところ、健康肌関連株のアクネ菌により、線虫の自然免疫や生体防御応答に関連する遺伝子群の発現が活性化することがわかりました。さらに線虫の遺伝子変異体を用いた解析から、健康肌関連株のアクネ菌株による黄色ブドウ球菌への抵抗性は、自然免疫を担う経路の一つであるTIR-1-p38 MAPK経路を介することに基づくもので、黄色ブドウ球菌自体の増殖抑制によるものではないことも示唆されました。これらのことから、健康肌関連株のアクネ菌株は、宿主の生体防御系を活性化することにより黄色ブドウ球菌への宿主抵抗性を向上させると考えられました。

今後の展開について

 本研究では、にきびの有無に関連するアクネ菌株のリボタイプ分類に着目することにより、悪者というイメージが強いアクネ菌の有益な側面について検証することができました。このことは、ある菌種の生体作用を評価する場合、菌株レベルで議論することの必要性を改めて認識させるものです。また、線虫を用いて皮膚常在細菌の作用や菌株間の違いを検出することに成功したことは、当該分野における線虫の代替モデルとしての有益性を示唆しています。本研究成果は、多くの若者が罹患するにきびに対するにきび肌関連アクネ菌株に焦点を当てた治療法の開発とともに、有益なアクネ菌株の新たな利用に繋がる可能性があります。ビフィズス菌や乳酸菌が大勢を占める腸内細菌のプロバイオティクス研究の流れの中で、“飲まないプロバイオティクス”としての健康肌関連性アクネ菌株などの皮膚常在細菌の応用可能性に先鞭をつけるものとして期待されます。

掲載誌情報

【雑誌名】 Microbiology Spectrum(IF=6.62)
【論文名】Nonpathogenic Cutibacterium acnes Confers Host Resistance against Staphylococcus aureus
【著 者】Ayano Tsuru, Yumi Hamazaki, Shuta Tomida, Mohammad Shaokat Ali, Tomomi Komura, Yoshikazu Nishikawa, Eriko Kage-Nakadai
【U R L】https://doi.org/10.1128/Spectrum.00562-21