公立大学法人大阪市立大学
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ナノ粒子を安定的に捕まえられる 新しい光ピンセット技術の開発に成功

プレスリリースはこちらから

この研究発表は下記のメディアで紹介されました。

◆9/29 化学工業日報
◆10/19 日刊工業新聞

概要

 大阪市立大学大学院 理学研究科 物質分子系専攻の坪井 泰之(つぼい やすゆき)教授、東海林 竜也(しょうじ たつや)講師らのグループは、ブラックシリコン*1と呼ばれるナノ構造体上で、100nm以下のナノ粒子を安定的に捕まえ、平面的・直線的に並べることができ、しかも安価な新しい光ピンセット*2技術を開発しました。
 従来の光ピンセットは赤血球や細胞などを破壊することなく捕まえ、操る技術として知られており、生命科学の分野で大きく貢献しています。しかし一方で、ピンセットの力が弱すぎるため、細胞よりも小さなナノメートルサイズのDNAやタンパク質を捕まえることは極めて困難なうえ、貴金属を用いるためにコストがかかるといった問題点がありました。
 そこで、ブラックシリコンと呼ばれるシリコン単結晶上にナノメートルサイズの針を無数に配置したナノ構造体を利用し、従来法をしのぐ高い捕捉力を発揮する光ピンセット技術を開発しました。開発した手法を用いることで、ナノ粒子を従来法の光ピンセットの十分の一以下の弱い光ビームで、安定に捕捉することに成功しました。さらに、このナノ構造体上で高分子ナノ粒子を捕まえると、ナノ粒子が平面的または直線的に並べられ(図2)、結晶化などを人為的に操作できる可能性があります。本研究成果により、ナノ空間で生体分子を自在に操り並べる次世代の技術が期待されます。

170927-12.jpg 補捉された高分子微粒子の蛍光顕微鏡写真
  図1 ブラックシリコンとその電子顕微鏡写真      図2 補捉された高分子微粒子の蛍光顕微鏡写真

※1 ブラックシリコン
ケイ素(シリコン)の単結晶をドライエッチング (プラズマガスを用いた化学腐食処理)し、表面に平均長さ250 nm、直径40~240 nmの無数の針状構造を表面に施した最先端材料(図1)。光の反射率が数%未満となるため、太陽電池の発電効率向上に向けた反射防止膜としての研究が進められている。

※2 光ピンセット
レーザーを顕微鏡の対物レンズにより集光することで、溶液中に漂う細胞や細菌、赤血球などの微小物体を集光点で捕まえ操る技術。

 本研究の成果は2017年9月26日に国際科学誌Scientific Reportsにオンライン掲載されました。
【雑 誌 名】Scientific Reports
【掲載日時】2017年9月26日(火)
【論 文 名】Optical tweezing and binding at high irradiation powers on black-Si
【 著  者 】Tatsuya Shoji, Ayaka Mototsuji, Armandas Balčytis, Denver Linklater, Saulius Juodkazis, and Yasuyuki Tsuboi
【掲載URL】https://www.nature.com/articles/s41598-017-12470-9

研究の背景

  溶液中に漂う細胞や赤血球を捕まえ、操る手法の一つとして光ピンセットがあります。光ピンセットとは、レーザー光を顕微鏡の対物レンズに強く集光することによって集光点で微粒子を捕まえる技術で、細胞を捕まえ任意の場所に移動させ配列させたり、大腸菌などの細菌の力応答を測定したりと生物学の分野で大きく貢献しています。
 しかしながら、捕捉する物質が小さくなるほど、光ピンセットの捕まえる力が弱くなる性質があり、細胞より小さな物質を従来の光ピンセットで操ることは極めて困難でした。このような課題を解決する手法として貴金属を用いたプラズモン光ピンセットが近年注目されていますが、高価な金や銀などを使うためコストと高度な技術を要すること、捕捉と同時に発生する熱が捕捉物質を損傷する恐れがあるといった問題点が挙げられていました。

本研究の内容

 熱発生をすることなく安価な製造コストで容易にナノ物質を捕捉する新しい光ピンセットを開発しました。本技術の肝となるものが、ブラックシリコンと呼ばれるナノ構造体です。ブラックシリコンは、ナノメートルサイズの針状構造を有したシリコン構造であり、容易に大面積を作製できます。このブラックシリコンにレーザー光を照射すると、発熱せずにポリスチレンナノ粒子を極めて安定的に捕捉することを発見しました。レーザー光を動かせば、捕まえた粒子を空間的に操ることもできます。また、レーザー光の照射面積を変えるだけで、捕まえた粒子を基板上で平面的に集めたり、一直線に並べたりできることを見出しました。

期待される効果

 ナノテクノロジーの発展に伴い、ナノ物質を操る方法が今後ますます求められます。本研究により開発された新しい光ピンセット技術を用いることで、特異な物性をもつナノ物質を選択的に捕まえ、任意の場所に整列させた新しいデバイスを作製することで、結晶化や相転移、自己組織化などを人為的に操作する可能性があり、新しい化学の展開が期待できます。

今後の展開について

 この新しい光ピンセット技術は、強い捕捉力を示すことを実験的に明らかにしましたが、なぜブラックシリコンがこのような機能を有するのかは解明されていません。今後は、このような興味深い現象が、ブラックシリコン以外のガラスやポリマーといった半導体ナノ構造でも実現できるのか、機構の解明および応用開拓を進めます。

特許等について

 本研究で開発された光ピンセットに関する技術は特許出願しています(特願2017-179496)。